掲載記事は シュピンドラー千恵子の執筆により、
オートメレビューオフィシャルサイト「安全工学講座」に連載中です。
20) 企業リスクマネジメント 第10話 〜安かろう悪かろう〜
11 月に入り耐震強度偽造問題が大きくクローズアップされている。違法と知りながら、9割の生計の糧である顧客の脅しに勝てなかった「弱い自分」の建築士、コストダウンによって己の暴利確保のために違法を強いた建設会社やデベロッパー、そして基準の適合性審査をなんともずさんな形で行った第三者検査機関。黒幕といわれるコンサルタント会社も登場し、豪華キャストの証人喚問では、一時は蜜月を過ごした関係者達の泥沼の罪のなすりあいを見る羽目になった。政治家や官僚の関与も疑われているこの問題は、国の安全対策制度問題へと発展し、許認可、審査を必要とする全ての業界への警鐘となった。
あるインターネット調査では、今回の耐震偽造事件で「一番悪いのは誰?」という質問に対し、「建設会社、デベロッパー」が4割、「建築士」が2〜5割、「検査機関」が2割弱という回答であった。「建築関係業者はコストダウンのため怪しげなことを行う疑いはもともとあり、そのための審査機関なのだから、メクラ判ならないほうがまし」「鉄筋の数など図面を見ればわかるはず。検査機関による審査は実質的にはほとんど行われていないのでは」といった建築検査機関の責任を問う声も多くあった。
今回の各関係者の構図は、他業種にも置き換えることができる。私の場合、電気、機械、医療機器等の製造業界である。実際に、「製造物責任はメーカーにあるわけだから、貴方たち審査機関は黙って判を押してくれればいい」と大手メーカーの担当者に言われたこともある。また、工場検査員が専門知識がなくともチェックリストにのっとり可否を出していると聞いたこともある。メーカーから便宜を図るようなお願いがないわけでもないという。
これは、受審側の配慮(接待)とそれを当然の如く受ける審査機関側との光景でより説得力のあるものになる。利害関係のある両者が、接待を受けても提供してもいけないことは周知のことだが、未だに徹底はされていない。この利害関係のある両担当者がネンゴロになることが、経営陣にとって一番怖い。そもそも本当のところ、建築検査機関はこの耐震構造の不適合を見落としたのか、分かっていて目を覆ったのか、あるいは見なかった(メクラ判)のだろうか。見落とし(人的ミス)と、分かっていて目をつぶった(意図的違法行為)、全く見なかった(義務放棄)では責任のニュアンスがかなり異なる。今回の事件で、同等の立場にある者にとって、うちは大丈夫かと社内体制の確認や見直しをした企業や認証機関が多くあるに違いない。
筆者の業界の場合、審査や検査にかかる工数は製品によって異なるのが通常であり、ワンマンデー(1人1日)の料金x製品の複雑さ(日数)によって検査費用が算出される。小さなデバイスと数百キロの大型装置では技術資料の量がかなり違い、全ての資料に目を通すだけでも明らかにかかる日数が異なってくる。したがってかかる費用も異なって当然で、製品一律価格なんてあり得ない。余程過去の処理案件の内容とボリュームを調査分析し、経営リスクを承知の上、提示出来る経営者でない限り、審査側からみて無謀な価格設定であり、もしそれがあり得るならば、価格の根拠を示しその根拠が妥当でない限り、手抜きをして判を押しているか、どこからか継続的経営資源の援助があるとしか考えられない。
住宅を選ぶ際の基準は「価格」「モデルハウス」「施行会社」の順であるそうだが、どんなに「安くて広く」「有名な大会社」であっても検査資料が信頼できないものであれば買ってはいけない。必要な試験や認証についても「一律価格」や「安い」ものは何かが不足と疑ってかかったほうが賢明である。メーカーはその価格の根拠を検査機関に十分に説明してもらい、納得の上注文して欲しい。なぜなら安物買いした側の責任は免れないのだから。
(05年12月21日掲載記事)
